五明処とは、インドに於て伝統的に知られている五つの学問分野(声明、医方明、工巧明、因明、内明)を意味する。本研究の目的は、研究代表者御牧が世界の三個所から入手し得た、チベット蔵外文献の稀書に属し従来入手困難とされてきたタクツァンロ-ツァワ・シェ-ラブリンチェン(1405-?)の『[五]明処全知』(Rig gnas kun ses)とその自注の批判的校訂本と訳注を完成させることにある。同書は、第一章:総説、第二章:工巧明(工芸、美術、天文)、第三章:医方明(薬学、医学)、第四章:声明(文法学、言語学)、第五章:因明(論理学)、第六章:内明(仏教学)という構成になっている。平成8〜9年度の研究期間中に以下の点に研究を進展させることが出来た。 1.文献全体をコンピューターにテクストデータとして保存し、また出版に向けてダイヤクリティカルマークを付したテクスト、並びにチベット文字によるテクストを整備した。 2.『[五]明処全知』の批判的校訂本と訳注を完成させる作業は、概ね終了した。しかし、『[五]明処全知』が典拠とする全文献を同定する作業は不明の部分もかなり残ったため今後も同作業を継続する必要がある。 3.今年度は本プロジェクトの最終年度に当るため、公表すべき成果として『[五]明処全知』全章の批判的校訂本を中心に刊行に向けて整備し、報告書(冊子)中に掲載すべく準備した。 本プロジェクト期間中、本研究に関する現在の我が国の何処にも設置されていないと思われるインド出版チベット複製文献を相当数購入出来たのは大変有益であった。また、現在の中国で出版されているチベット文献の内、本研究に関係する文献をほとんど網羅的に購入出来たことも本研究を進展させる上で大いに有益であった。
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