私は、この15年来、「からゆきさん」と日本の阿片政策をずっと研究してきた。当初は、この二つのテーマを近代日中関係の裏面史と位置づけていた。しかし、最近、いわば逆転の発想で、裏面史などでは決してなく、これらこそ本体だったのではないかと考えるようになった。 すなわち、日本内地の喰いつめ者が、一攫千金を夢みて、中国にわたる。しかし、手に職もなく、また、言葉もろくに通じない中国で、彼らが一人前に食ってゆけるはずがなかった。その中で、「からゆきさん」とモルヒネの密売人だけが、例外であった。したがって、彼らを中心にして、近代日中関係史(少なくとも、庶民レベルの)を構築しなおすべきである。 また、近代日本の資本の原始蓄積といえば、従来から絹織物工業が有名である。私は、これと並んで、「からゆきさん」からの送金と、阿片・モルヒネ類の密売による利益の二つを追加したい。前者の金額は、たしかに後者ほど多くはない。しかし、明治初年から、ずっと続いていたから、それが客観的に果たした役割は、普通、考えられている以上に大きかったのではないだろうか。
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