9年度は、前年度の調査の補充として、大阪、福岡、北九州、長崎などの児童相談所、家庭児童相談室、養護施設などの児童福祉機関を対象に、児童虐待・遺棄に対する児童保護のための公的援助の実態とその問題点について、実務担当者に面接調査を行った。特に、児童保護のための諸対応・措置と親権者の意向との衝突やその調整の現状について重点的に調査した。 前年度の調査において明らかになったように、その調整に関して、各機関の実務では、ケースワーク的手法を重視し、諸対応・措置について親権者の同意を得ることを基本としているが、最近では、児童保護のためには、強制的親子分離も必要であるとの機運が強まっている。したがって、今年度は、強制的親子分離措置の実態についての補充調査に焦点を置いたが、そこで判明したことの概要は以下のとおりである。 (1)親権者の意向に反した、一時保護や家裁の承認による施設入所の場合にも、親権者の権限が制限・停止されるわけではないので、親権者の介入や強引な引き取り要求に現実には抗しがたい。(2)最近では、弁護士などの協力を得られる児童相談所では、(1)に記載した問題点を改善するための便法として、親権者職務執行の停止および職務代行者の選任の仮処分の方法が採られている。この方法は、親権を制限したうえで、緊急に児童を親から切り離すことができるとの利点があるが、他方では、親権喪失の本訴の係属が必要であること、本訴の請求者となる親族がなかなか見つからないこと、仮処分であるゆえに親権者等の意見が十分に聴取されないこと、強制的分離後の親子関係修復のためのケアが困難になることなどの問題がある。(3)したがって、児童保護のために強制的介入が必要な場合の手続きの整備が必要であろうし、根本的には、ケースワーク的な援助と親子関係への法的な介入とが同一機関に共存させる現行制度の再検討が必要である。
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