長崎・福岡・北九州、大阪・東京の児童相談所、家庭児童相談所、養護施設などの児童福祉機関の実務担当者を対象に、親による児童虐待・遺棄に対する児童保護のための公的援助の実態とその問題点について、特に児童保護のための諸措置と親権との衝突とその際の調整の現状を中心に、面接調査を行った。そこで判明したことの概略は以下のとおりである。 (1) 従来、各機関では、親子関係の修復をめざしたケースワーク的援助を基本とし、一時保護、施設入所など児童保護のために親子分離の措置が必要である場合にも、親との友好関係維持のために、極力親権者の同意を得ることを原則としていた。 (2) しかし、親権者が親子分離に同意しない場合とか親権者の同意あるいは家裁の承認に基づき施設入所の措置をなしても、親権者の意思で強引に子の引き取りがなされる場合など、子の保護のための措置と親権が対立する事例がかなり存在する。これは、現行親権規定では親の「権利」と表現されていることや、親子分離後の親権に対する制限が現行児童福祉法等では曖昧であることなどに帰因している。したがって、現行親権規定は英国法のように「親の責任」と規定し直す必要がある。 (3) しかるに、最近の実務では、児童保護を重視して、家裁の同意による施設入所や審判前の保全処分などの司法的手段の活用により、強制的な親子分離や親権の制限を積極的に行う機運が強くなっている。これは、親権はむしろ親の「義務」であって、子の保護が優先されるべきであるとの認識が実務で高まったことによる。 (4) 一方、英米の児童保護システムと対比すると、その実務の傾向には、子の保護のためとはいえ、親権者の意思が軽視されている側面もあり、強制的な親子分離や親権制限ための手続的整備が必要である。 (5) ケースワーク的援助の役割と親子関係への法的介入権限という相矛盾する役割を児童相談所が担う現行システムは再検討される必要がある。
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