本研究では、セシウムなどのアルカリ金属-黒鉛層間化合物をホストと、これに不飽和結合を持つ有機分子を吸収させて3元系黒鉛層間化合物を合成し、それら化合物の構造および電気伝導度などの特性を測定し、大気中で安定な高電気伝導性化合物の開発の指針を検討した。得られた研究成果は以下の通りである。 1.ステージ2のセシウム-黒鉛層間化合物に加えて、ステージ2のルビジウムおよびカリウム-黒鉛層間化合物をホストとしてエチレンを含む3元系黒鉛層間化合物を合成した。エチレン-カリウム-黒鉛層間化合物は、従来知られていたエチレン-セシウム-黒鉛系と異なって、独自の層構造を持つが、大気中安定性が比較的低いことが明らかとなった。 2.ステージ2のセシウム-黒鉛層間化合物は、エチレン、アセチレンのほか、アクリロニトリル、ベンゼンなどの不飽和結合を持つ有機分子を不可逆的に吸収して、3元系層間化合物を生成する。とくにアクリロニトリル-セシウム-黒鉛3元系層間化合物はステージ2の構造を持ち、他の3元系化合物はステージ2の構造を持ち、他の3元系化合物に比べて高い電気伝導性を保持することが確認された。アクリロニトリルもエチレンと同様に黒鉛層間においてオリゴマー化することにより安定になると思われるが、電気伝導度の経時劣化が大きく、生成した3元系化合物の熱処理などによって若干改善されるものの、いまだ経時劣化を克服できず、今後の課題となった。 3.以上のように、本研究においては、アルカリ金属黒鉛層間化合物をホストとし、有機分子の導入による安定な3元系化合物の生成について検討した。現在のところ、エチレン-セシウム-黒鉛3元系化合物がもっとも有望であると結論される。
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