イネいもち病菌分生胞子の発芽液から部分純化した毒素をイネ品種関口朝日に処理後、電顕観察した。その結果、毒素の影響は処理後1時間で認められ、それはミトコンドリアにおける基質の電子密度の低下やクリステ数の現象として認められた。このようなミトコンドリア変性の程度は、毒素処理時間が経過しても進行することはなかった。その他の器官では変性はみられなかった。このミトコンドリア変性は、宿主特異的に認められた。さらに、いもち病菌を接種したイネ細胞においてもミトコンドリア変性がいもち病菌との親和関係に関係なく認められた。しかし、変性の程度は、抵抗性と感受性品種との間で大きく異なった。すなわち、感受性品種では接種後の時間が経過してもミトコンドリア変性は毒素処理葉におけるそれと同様に増加現象はみられなかった。しかし、抵抗性品種では24時間以降になると変性の割合と程度は著しく増加し、過敏感細胞死を起こした細胞と同様の変性が観察された。以上のことから、1)いもち病菌はレースに関係なく生成する毒素により宿主植物のミトコンドリアに作用しながら基本的親和性を成立させると考えられる、2)親和性レースではそのまま感染が進み、イネは発病するが、非親和性レースの場合は、基本的親和性の成立段階では宿主細胞は過敏感死を起こすことはないが、病原菌からのエリシター的因子を認識することにより宿主細胞は死に至ると考えられる。
|