本研究は、東北庄内地方における「ムラ」レベル(集落)での農地改革後の土地と人の50年間の動きを検討したものである。報告書の作成にあたっては、農地改革に焦点をあわせて論述した。 従来の農地改革論は、その実施過程や土地制度的な側面からの検討は行われたが、「ムラ」レベルから本格的に行われたものはない。そこで本研究ではかかる具体的な「ムラ」の農地改革はいかなるものかを、戦後自作農的土地所有、イエ、ムラとの関係で検討した。 以下、要点を箇条書きすれば次の通りである。 1.かつて、「北平田村型農地改革」といわれる酒田市旧北平田村を調査対象とし、具体的分析はN集落の実態をもとに明らかにした。 2.N集落については農地改革後の50年間の全農家のデータがそろっていたためである。とりわけ、農地改革の具体的な手法として採用された、「交換分合」の具体的な資料が存在したからである。 3.この資料から、各農家の農地改革前の状態と改革後の状態が確定できた。そこでの結論は、耕作面積上限3ヘクタールと決定した「北平田村型農地改革」は、従来いわれたものとは違ったものであることが確認された。 4.旧地主および小作大経営層に有利な農地改革が行われていた。旧小作経営にも農地を開放するかわりに、旧地主及び小作大経営層は比較的優等地を自らの経営地にした(但し、優等地・劣等地の基準は収量水準ばかりではなく、自宅から距離、農地の集団化、排水条件等も勘案した意味での序列であるので、比較的自宅から遠い優等地を開放して、近い劣等地を集めて集団化している場合もある)。 5.そのことにより、農地改革後に創出された自作農的土地所有による自作小農は、戦後農業生産力の担い手になった。
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