研究概要 |
ヒトsecretory leukoprotease inhibitor(SLPI)遺伝子の細胞特異的(cell-type specific)な転写調節にかかわる転写因子を同定するため,以下の4点を検討した。 1.ヒトの癌由来の培養細胞から,SLPI mRNAを発現するものとしないものをノーザンブロットで選んだ。 2.SLPI遺伝子のプロモーター領域につき,これらの培養細胞のクロマチン構造におけるDNase I感受性部位をマップした。 3.これらの培養細胞を用いてSLPI遺伝子のプロモーター領域の転写活性をレポーター遺伝子法でアッセイした。 4.上記2.と3.によって転写因子が結合すると予想されたDNA配列をプローブとしてゲルシフトアッセイを行ない,SLPI遺伝子のcell-type specificな転写調節にかかわる転写因子の存在を示した。 SLPI mRNAは肺癌由来のA549と子宮頸癌由来のHeLaに認められたが,肝細胞癌由来のHepG2には認められなかった。A549とHeLaのクロマチンでは,SLPI遺伝子の上流領域にそれぞれ4個所のDNase I感受性部位がマップされた。ルシフェラーゼのcDNAを用いたレポーター遺伝子法により,気道上皮でのSLPI遺伝子の転写活性に特異的と推測されるシスエレメントは,転写開始点の上流-91-132塩基の間にあることが示唆された。この領域はHeLaでは特異性を示さなかった。ゲルシフトアッセイでは,A549とHeLaのいずれの核抽出物中にもこの領域のDNAと結合するタンパク質が2種類存在することがわかったが,それらの含量の比がA549とHeLaで逆転しており,この量比がSLPI遺伝子の転写のcell-type sepcificityを決めていることが推定された(Am. J. Respir. Cell Mol. Biol., in press)。
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