研究概要 |
前年度は,ヒトsecretory leukoprotease inhibitor(SLPI)遺伝子のプロモーター領域中にこの遺伝子のcell-type specificな転写調節に関与するシスエレメントが存在すること,およびこのシスエレメントに結合する転写因子と推定されるたんぱく質がSLPI遺伝子を発現する培養細胞の核に存在することを明らかにした(Am.J.Respir.Cell Mol.Biol.17:361-367,1977)。 今年度の研究計画はこの転写因子を分離,精製し,そのcDNAをクローニングすることであった。当初の計画では,生化学的手法によるたんぱく質の分離,精製を先行し,得られたたんぱく質のアミノ酸配列をもとにcDNAライブラリーからのクローニングを行なう予定であった。しかし,酵母への二重遺伝子導入法によって特定のシスエレメントと相互作用をもつたんぱく質のを先にクローニングする方法が開発されており,今年度はこの系が本研究計画の目的とするたんぱく質のcDNAクローニングに使えるかどうかを検討した。 標的とするDNA配列は前年度の研究で明らかにしたシスエレメントを含むヒトSLPI遺伝子プロモーター領域のもの(転写開始点の上流91から132塩基対の配列)とし,これをヒスチジン要求株(his^-)から非要求株(his^+)への復帰遺伝子(HIS)の発現ベクターpRS414プロモーター領域に組み込んだ。このプラスミドで酵母を形質転換したところ,第二の発現ベクターを導入することなしに酵母はhis^+へ復帰してしまい,この系をそのまま目的とするcDNAのクローニングには使えないことが判明した。 今後は上記の方法で使用した標的DNA配列の妥当性を,DNaseIフットプリント法にもどって検討しなおし,標的DNA配列をより厳密に設定して二重遺伝子導入法の有用性を再検討する予定である。同時に生化学的手法によるたんぱく質の分離,精製の準備も始める予定である。
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