我々は前年度の研究において放射性ヨウ素標識(-)-m-ヨードベサミコール((-)-mIV)を標識合成し、さらにインビトロおよびインビボ実験を行い、(-)-mIVはベサミコールと同じようにアセチルコリントランスポーターに対して光学特異的で高い親和性(K_d=18.2nM、B_<max>=660fmol/mg of protein)を示し、さらに他のレセプター(ドーパミン、セロトニン、アドレナリン、アセチルコリンおよびシグマレセプター)に対する親和性が低いことを確認し、コリン作動性神経機能診断薬として期待できることがわかった。そこで今回さらに、イボテン酸により右側前脳基底部を破壊することにより作製したアルツハイマー性痴呆モデルラットを用いて、アルツハイマー病の客観的診断薬となりうるか検討した。実験は^<125>I-(-)-mIVおよび^<99m>Tc-HMPAOをラットに投与し、イメージングプレートによるダブルトレーサーオートラジオグラフィにより、^<125>I-(-)-mIVの局所脳内分布および局所脳血流分布を比較検討した。その結果、^<125>I-(-)-mIVは大脳皮質の前頭葉、頭頂葉および側頭葉で破壊側が健側に比べ集積が約11%減少していた。一方、海馬、線条体、視床および扁桃核群では集積の減少は見られなかった。また脳血流の減少は大脳皮質で若干見られたものの、^<125>I-(-)-mIVの減少率は脳血流に比べ有意に減少していた。このことから、放射性ヨウ素標識(-)-mIVはアルツハイマー病の診断の客観的な指標となりうるシナプス前コリン作動性神経機能診断薬としての可能性が示唆された。また最近、我々はべサミコールにはべサミコールレセプター以外に高親和性の新しい結合部位が存在する可能性があることを見出しており、これらの二つのレセプターに対して特異的な新しい神経機能診断薬の開発を検討していくつもりである。
|