我々はベサミコールがシナプス終末前部のシナプス小胞の膜に存在するアセチルコリントランスポーターに特異的に結合することから、シナプス前コリン作動性神経機能診断薬の開発を目指してベサミコールおよびその類似体の放射性ヨウ素標識化を検討した。まず最初に放射性ヨウ素の導入位置を検討したところベンゼン核のメタ位にヨウ素を導入したm-ヨードベサミコールがベサミコールと同様の性質を保持していることがわかった。そこで次に、光学活性体である放射性ヨウ素標識(-)-m-ヨードベサミコール((-)-mIV)を標識合成し、インビトロおよびインビボ実験を行った結果、(-)-mIVはベサミコールと同じようにアセチルコリントランスポーターに対して光学特異的で高い親和性を示すとともに、他のレセプター(ドーパミン、セロトニン、アドレナリン、アセチルコリンおよびシグマレセプター)に対する親和性が低いことがわかった。またラット脳のオートラジオグラム像も^3H-ベサミコールと一致した。さらに、イボテン酸により右側前脳基底部を破壊することにより作製したアルツハイマー性痴呆モデルラットを用いて、アルツハイマー病の客観的診断薬となりうるか検討した。実験は^<125>I-(-)-mIVおよび^<99m>Tc-HMPAOをラットに投与し、イメージングプレートによるダブルトレーサーオートラジオグラフィにより、^<125>I-(-)-mIVの局所脳内分布および局所脳血流分布を比較検討した。その結果、^<125>I-(-)-mIVは大脳皮質の前頭葉、頭頂葉および側頭葉で破壊側が健側に比べ集積が11%減少していた。一方、海馬、線条体、視床および扁桃核群では集積の減少は見られなかった。また脳血流の減少は大脳皮質で若干見られたものの、^<125>I-(-)-mIVの減少率は脳血流に比べ有意に減少していた。このことから、放射性ヨウ素標識(-)-mIVはアルツハイマー病の診断の客観的な指標となりうるシナプス前コリン作動性神経機能診断薬としての可能性が示唆された。
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