血小板減少症に起因する出血の治療や予防に対しては血小板輸血が唯一の効果的治療であり、現在のところこれを代用する治療法はない。しかし血小板輸血には供給の制限、感染症の伝播、同種免疫の成立、発熱など数々の問題点があることも事実である。本研究は十分な止血能を有し、生体適合性が良く副作用が少ない人工血小板代替物の開発を目的としている。我々は既に血小板のフォンビルブランド因子(vWF)受容体である膜蛋白GPIb/IXを、異物としての認識が少ないと考えられているリポゾームに導入することに成功している。我々はCHO細胞発現ヒト組換えGPIb/IXを固相化したリポゾームのin vitroの機能評価を行った。その結果、組換えGPIb/IXが導入されたリポゾームは、血小板と同様、vWFとリストセチン存在下で凝集すること、正常ヒト血小板と混合すると血小板凝集塊に巻き込まれること、血小板減少状態(2〜4万/ml)での血小板凝集を増強することなどが明かとなった。またGPIbα-liposomeのin vitroでの粘着(静止系、流動下)、凝集、正常血小板との結合、正常血小板凝集の増強作用、in vivoではラット頚動脈シャントモデルでの血栓への集積性、動物血管壁ブロックへの特異的粘着が現時点までに確認された。血管損傷時、vWFとコラゲンが内皮下組織において血小板粘着の標的になっていることを考えると我々の作成したリポソームはin vivoにおいても血管損傷部位に集積し、止血機能を示すことが充分に予想される。 以上得られたの成果より、今後の方向としては(1) 動物実験で、薬物動態と、血栓への集積性の定量、血小板減少動物に投与した際の止血の能の改善を観察する。(2) 一方、止血に必要な機能蛋白を担う担体として現在のリポソームが最適であるか否かについては、なお議論のあるところであり、担体分子の改良も常に念頭に置きながら開発をすすめる。(例えばアルブミン重合体へのGPIbαの導入やリポソームのPEG化など)。これらの生体適合性や、血中半減期、生体内分布などについて、現プロトタイプとの比較のためのin vivoでの検討が急務である。
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