研究概要 |
平成8年度は保存肝の検討を行った。肝内エネルギー代謝からみると、保存時間lnお延長とともに再潅流後の高エネルギー燐代謝物の回復は低下し、細胞内pHは肝細胞内の乳酸の蓄積とともにアシドーシスに傾いた。1H-MRSを用いた保存中の緩和時間の変化では、保存液としては不適であるKrebs-Henseleit液では保存時間とともに延長した(保存前274.5±21.3ms(Mean±SD),24時間保存402.6±35.2ms)。しかし通常臨床に用いられるUW液では逆に、12時間保存までは軽度短縮したが、それ以降はほぼ一定の値であった(保存前254.5±21.3ms,12時間保存242.6±31.8ms)。さらにこれらの緩和時間の変化は、保存肝の水分量(g%)と相関していた。このことから保存に伴う細胞内浮腫が緩和時間の変化と関連があることが示唆された。以上の結果から多核種MRスペクトロスコピーが、保存中の肝臓のエネルギー代謝、細胞内pH及び緩和時間の変化を非侵襲的に測定でき移植モニター法として有用なことが確認できた。さらに平成9年度は移植後の臓器を想定した検討としてin vivo状態で麻酔下ラットの体表から肝臓のMRSを測定する法を検討した。サーフェイスコイル法による測定では、空間的に完全な非測定部位の選択は困難であるが、測定条件の選択によって限局性を持たせることが可能であり、代謝変化の追跡には十分応用可能であった。次にin vivo状態で肝血流遮断に伴うエネルギー状態の変化を検討した。潅流状態でATPは血流遮断後30分でほぼ消失したが、in vivoでは30分で遮断前値の80%まで低下した。以上の測定条件を踏まえて、移植肝での検討を試みたがラット移植手技が煩雑なためデータが安定せず移植状態を想定した上記結果に止まった。しかし本研究の結果から多核種MRSが臓器保存状態の変化や移植後の肝内代謝動態のモニター法として実用可能であり、移植治療における本法の有用性が確認された。
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