現在のAAVベクターは野生型の持つ部位特異的な染色体への挿入能力を持たない。そこで、AAVベクターにこの能力を付加する事を目標とした。AAV蛋白質Rep78遺伝子を大腸菌内でmaltose binding proteinとのfusion proteinとして発現させ、これを抗原とした抗-Rep78ウサギ・ポリクローナル抗血清を作成した。この抗血清は市販のAAV Rep proteinモノクローナル抗体(PROGEN;226.7)と同一のwestern blotのバンドを認識し、fusion proteinとして発現させた蛋白質がRep78蛋白質であることを確認した。次に、このRep78蛋白質をヒト培養細胞(293細胞)へ直接導入することにより、AAVベクター遺伝子が部位特異的に挿入出来るか検討した。amylose resinにて精製したRep78蛋白質とネオマイシン耐性遺伝子を持つAAVベクタープラスミドとをliposomeを用いて293細胞へ導入後、G418にてセレクションし、DNAを分離した。前年度において確立した部位特異的挿入の同定法、即ち、AAVベクター遺伝子の両端末部分(ITR)と細胞ゲノムの第19染色体の長腕(q13.4-ter)に存在するAAV挿入部位(AAVS1:既知配列)とをプライマーとするNested-PCR、AAVS1配列のオリゴをプローブに用いたサザン分析により、AAVベクター遺伝子の部位特異的挿入を確認した。Direct-sequenceによりAAVベクター遺伝子の挿入部位およびAAVS1内の挿入部位をそれぞれ検討したところ、既報の野生型AAVの挿入部位と非常に類似していた。以上の結果は、ITR配列とRep78/68蛋白質が同時に存在することがヒト・ゲノムへ目的遺伝子を部位特異的に挿入するための必要・充分条件であることを示している。
|