研究概要 |
今回の検討では,超伝導センサ研究所により開発され、住友電気工業研究所で改良された液体窒素による16チャンネル磁束計を用いて、心磁界検出を試みた。 これまで、生体磁気計測は絶対零度に近い超伝導でみられるjosephson効果を応用した磁気センサーが必要であり、高額な液体ヘリウムを多量に必要とした。しかし、最近高温超伝導体の開発により安価な液体窒素を用いた高温超伝導量子干渉計(SQUID:superconducting quantum interference device)が開発された。今回、液体窒素冷却により動作する高温超伝導SQUIDを用いた16チャンネル心磁計を用いて、健常例の心臓磁界を測定し、さらに、従来より使用されている液体ヘリウムを用いるSQUID磁束計での心臓磁界記録と比較した。 心臓磁束計は、HoBaCuO薄膜を素子材料とした16チャンネルセンサで、簡易円筒型磁気シールド内(16cm×47cm×157cm)で記録した。磁場分解能は<1pT/√Hz【greater than or equal】Hzで、作動温度は77K(液体窒素系温度)である。健常ボランティアについて、前胸部中央〜左方の9カ所(16チャンネル×9スキャン、合計144誘導点)で心臓磁界を計測し、QRS波およびT波における磁界分布図を作成し、ビオ・サバ-ルの法則により心 QRS初期および終末部分は、シグナル/ノイズ比が低いが、10心拍の加算にて良好に心臓磁界が観察された。QRS波のピークでは、加算しなくても心起電力の推定は可能であった。本システムを用いた心臓磁界によるQRS波およびT波の磁界分布図から推定された心起電力は、液体ヘリウムを用いた磁気センサにより得られたと心起電力とほぼ一致した。 従来より使用されている磁気センサは高額であり、かつ液体ヘリウムの取り扱いが煩雑であり臨床応用の普及の妨げとなっていた。しかし、液体窒素を用いる本システムの開発によって、これらの問題は解決され、今後臨床診断に貢献しうるものと考えられた。
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