本研究の目的は、重水あるいは重水素で標識された有機物分子(メチルアルコール、エチルアルコールなど)を添加した軽水を溶媒としてγ線照射実験を行い、発生する水素中の重水素と軽水素の同位体比率を質量分析装置で分析し、γ線に誘起された触媒反応の素過程に関しての情報を得ることである。今年度は、別目的の既設装置を改造した。四重極質量分析器の排気系を、γ線誘起触媒作用で発生した大気圧のガス試料を導入できるように、それぞれがターボ分子ポンプを付帯持つ高真空槽と低真空槽をオリフィスで接続し作動排気装置とした。また低真空槽にはニードルバルブを設けたので、本目的に必要な性能を持つ装置となった。現在は、装置の調整と校正を行いつつある。また、この装置にガス試料を効率良く回収・移送できるようなγ線照射用のガラス製容器も設計し、試作検討中である。 貴金属イオンの超音波化学的還元法で、触媒作用を増進させる可能性のある貴金属コロイドを調製した。sodium tetrachloroaurate(III)dihydrateとsodium tetrachloropalladate(II)をそれぞれ単独に還元する場合と混合して還元する場合、を比較検討した。透過電子顕微鏡を用いた観察の結果、8nmほどのサイズのコロイドがどちらかの場合も生成することが判った。また、混合して同時還元を行った場合は、溶液中のイオンの吸光度測定結果によると、まず金が還元され次にパラジウムが還元された。X線回折は金のパターンしか示さず、金の核コアとパラジウムのシェルからなる複合構造が示唆されたので、電界放射型電子銃式高分解能透過電顕で詳しい観察を行ったところ、実際にその構造が確認された。この結果についての論文は受理され印刷中である(J.Phys.Chem.)。
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