当初Bcl-2をCAGプロモータに直接つないだウイルスを作製しようとしたが、産生されなかった。原因は不明だが、発現させるものによってはウイルス作製が不能の場合があること分かった。このため、CAG-Bcl-2配列の前にLoxP-ネオマイシン耐性遺伝子-LoxP配列を置いてBcl-2の発現を抑えたウイルスとCre-recombinaseを発現するウイルスを共感染させる系を作製した(Cre-LoxPシステム)。平成9年度はこの系が実際に機能するかについて、神経系の初代培養系と生体内への注入を行なって確認すること、さらにこのようにして発現させた遺伝子が実際に作用を現すかについて検討をおこなった。 脊髄の神経節細胞と運動神経細胞の初代培養系へのウイルス感染と細胞死の抑制効果について検討をおこなった。両細胞系とも、共感染によってBcl-2の発現が認められた。NGFの除去や骨格筋抽出液の除去を行なって細胞死を誘導したところ、Bcl-2を発現した細胞の生存量が有意に増えていることが明らかとなり、細胞死抑制効果が確かめられた。現在この結果について論文投稿中である。また、C6グリオーマ細胞系への発現実験では、Bcl-2の過剰発現が逆に細胞死を誘導する所見がえられた。この意義については今後さらに検討が必要と思われる。 生体内への注入は、ニワトリ胚の脊髄への直接注入と下肢に注入し逆向輸送による運動神経特異的導入を試みた。孵卵3.5日の頚髄腹側にウイルス液を注入し、4.5日に固定したところ、注入部位に遺伝子発現が認められた。しかしながら、発現の割合は3-40%程度にとどまり、定量的な作用の評価はできなかった。下肢への注入は至適な注入時期を検討したところ孵卵4.5-5日が効率が良いことが分かった。この時期の注入によって、分節によってはBCL-2の発現が7-80%程度の運動神経細胞に認められた。また、発現遺伝子の効果をより明瞭に確かめるため、ウイルス注入の2日後以降に下肢に低濃度のコルヒチンを注入し運動神経細胞をほぼ完璧に細胞死させる系を開発した。現在この系を用いて定量的な解析を進めている。
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