本研究は(1)アデノウイルスベクターを用いたニワトリ胚神経系への遺伝子導入法の確立と(2)Bcl-2遺伝子およびCrmA遺伝子の細胞死に対する影響のin vitroおよびin vivoにおける解析を目的とした。主な成果は以下の通り。 (1) アデノウイルスベクターの遺伝子発現プロモーターとして、全ての細胞で強力に発現を誘導するCAGプロモーターに直接Bcl-2遺伝子を結合したDNAコンストラクトでは、組み換えアデノウイルスを得るに至らなかった。そのため、遺伝子発現時期の調節を可能にするCre-loxPシステムを用いたところ、組み換えアデノウイルスを得ることができた。このことは、導入遺伝子の違いによって、組み換えアデノウイルス作成時のタンパク発現を調節する必要性があることを示唆している (2) 組み換えアデノウイルスがニワトリ胚の細胞および神経細胞に感染し、導入遺伝子の発現が行われることをニワトリ胚脊髄神経節(DRG)ニューロンおよび運動神経細胞の初代培養、およびニワトリ胚への直接注入実験において明かにした。さらに、孵卵4.5〜5日のニワトリ胚下肢へウイルス液を注入することで、ニワトリ胚腰膨大部の外側運動核へ遺伝子導入が確認され、組み換えアデノウイルスを用いた遺伝子導入法を確立するに至った。 (3) アデノウイルスによって導入されたBcl-2の細胞死に対する影響をDRGと運動神経細胞の初代培養系で検討したところ、いずれも細胞死抑制効果が確認された。 (4) C6グリオーマ細胞系では導入されたBcl-2によってむしろ細胞死が誘導された。 (5) アデノウイルスによって導入されたcrmAにはDRG初代培養系に対する細胞死抑制効果はみられなかった。 (6) アデノウイルスの逆行性輸送によって発生中の胚の生体内の運動神経に遺伝子を導入する至適な条件の検討を行い、分節のよってはBcl-2の発現が数十%程度導入される条件が明らかになった。また、このようにして導入されたBcl-2は、下肢を除去することによって誘導される運動神経の細胞死をある程度抑制する効果があることが明らかとなった。
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