本研究は、現行の中学校数学における学習指導を、近年の教育研究および認知心理学研究におけるコミュニケーションに関する成果をもとに再検討し、これからの情報化社会に対応したものへ改善することを目的とする。数学的能力の発達には、数学的記号や式、数学用語、図、表、グラフ等、数学的表現に関わる「数学のコトバ」(数学的ディスコース)の習得が重要に関わっており、生徒はそれらを今日の高度情報化社会において実現、伝達および探究の道具として自在に駆使できるようになることが求められている。平成8年度は、数学学習におけるコミュニケーションの実態について把握するために、中学校の数学の授業を観察するケーススタディを行った。研究に協力する数学教師の事情や意見を考慮し、コミュニケーションが盛んなクラス1つ、コンピュータソフトウェアを積極的に活用するクラス1つ、ティームティーチングを活用するクラス2つを選び、平成8年11月〜12月にデータ収集を行い、フィールドノート作成、ビデオカメラ及びミニディスクレコーダによる授業の記録、教師へのインタビュー調査を行った。現在、データ分析を進めている段階である。暫定的な知見は以下の通り: 1 教師と生徒の間のコミュニケーションでは、生徒の側の発言は頻度が多い場合でも教師に比べて短いものが多く、表現方法が限られている傾向がある。 2 コンピュータとの対話の場は従来の教室内コミュニケーションに新しい次元を導入する可能性をもっている。しかし、その場は現状ではまだ極めて限られた状態にある。 3 ティームティーチングは、数学科教員間の円滑なコミュニケーションが図られている場合には、生徒と教師の間のコミュニケーションの機会を広げる豊かな可能性をもっている。
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