本研究は、現行の中学校数学における学習指導を、近年の教育研究及び認知心理学研究におけるコミュニケーションに関する成果をもとに再検討し、これからの情報化社会に対応したものへ改善することを目的とした。数学能力の発達には、記号や士気、数学用語、図、表、グラフ等、数学的表現に係わる数学系ディスコースの習得が重要に関わっており、生徒はそれらを今日の情報化社会において表現、伝達及び探究の道具として自在に駆使できるようになることが求められている。平成8年度は、数学学習におけるコミュニケーションの実態を把握するために、様々なタイプの中学校数学の授業を観察するケーススタディを行い、以下の知見を得た: 1 教師と生徒間のコミュニケーションでは、生徒の側の発現は頻度が多い場合でも教師に比べて短いものが多く、表現方法が限られている傾向がある。 2 コンピュータとの対話の場は従来の教室内コミュニケーションに新しい次元を導入する可能性をもっている。しかし、その場は現状ではまだ極めて限られた状態にある。 3 ティーメティーチングは、数学科教員間の円滑なコミュニケーションが図られている場合、生徒と教師のコミュニケーションの機会を広げる豊かな可能性をもっている。 平成9年度は、前年度に得た知見に基づき、数学学習において効果的なコミュニケーションを促進する方法の開発を行った。数学的ディスコースの中でも重要な「数学系照明」をG.レイコフの認知モデル理論から分析した。従来の論証指導で用いられている認知モデルを分析し、より豊かなコミュニケーションを育成する見地から新たなモデルの利用を提案した。それに基づき、中学2年生の図形の論証の単元で教授実験を行い、コミュニケーションを豊かにするための教材及び指導法として、学習ファイルを活用しながら論証を「冒険の旅のストーリーを語る」活動として理解させていくものを開発した。
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