2008年度は主にフィールドワークの年とし、発掘調査によって分析資料の収集を行うとともに、植生調査と標本採集を行った。ガーネム・アル・アリ遺跡発掘で採取した土壌サンプルをフローテーション処理し、炭化物を回収して顕微鏡下で種子の同定作業を行った。 これまで分析終了したサンプル7点中では、テル・ガーナム・アリ遺跡で最も多かった種子はオオムギであった。その他の同時期遺跡でも最も多く出ているのはオオムギであり、当時の主要な作物だったことが伺える。その他、レンズマメ、グラスマメ/カラスノエンドウ、ブドウの種子が出土している。マメ類は点数が少なく、確実に栽培されていたかどうかまだ分からない。ブドウは栽培されていた可能性もあるが、地中海地方から輸入していたとも考えられる。 7点のサンプルのうち、7割がオオムギ種子で占められたものが1点あり、これは貯蔵されていたオオムギと考えられる。この中に混ざっていた野生植物から、イネ科Phalaris属、Lolium属、Aegilops属、アカネ科Galium属が、オオムギ畑の随伴雑草である可能性が指摘できる。また、作物がほとんど含まれないサンプルもあり、これは糞燃料に含まれていた種子が炭化したものと考えられる。西アジアの木の少ない地域では、しばしば家畜の糞を乾燥されて燃料に用いる。今後さらに分析サンプルを増やし、雑草や糞燃料からくる種子を判別することで、灌漑があったかどうか、畑がどこにあったか、家畜をどこで放牧しているか、といった農耕技術や土地利用を復元することにつながる。 今後は引き続きサンプル採取と種子同定を進めることで、遺跡内の時期的・空間的な植物利用の様相・変遷を明らかにし、青銅器時代の生業復元をめざす。
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