小胞体に生じた構造不全タンパク質を積極的に分解する細胞機能を小胞体関連分解(ERAD)と呼ぶ。ERAD研究において、分解対象タンパク質の逆輸送メカニズムの解明は、最重要課題のひとつである。本研究では、逆輸送を担うレトロトランスロコンの候補として報告されているDerlin遺伝子ファミリーに属する全遺伝子、Derlin-1、Derlin-2、Derlin-3、のノックアウトマウスを完成・解析し、Derlinの分子機能を解明する。また、Derlinとともに機能する他のERAD関連蛋白質、とくに当研究室で同定したHerpを中心にERAD複合体の実態を解明する。初年度である20年度は、Derlinファミリー全遺伝子のノックアウトマウスの完成と、Herpノックアウトマウスを用いて小胞体ストレスの有無に依存したERAD複合体の動態解析をおこなった。Derlin-1およびDerlin-2のヘテロ欠損(HET)マウス同士の交配により、ホモ欠損(KO)マウスを得る事にした。しかし、交配の結果、Derlin-1およびDerlin-2のKOマウスは胎性致死であることが分かった。ともにWTとHETの出生比はほぼ1:2となっており、HETマウスの出生に影響はないと考えられる。また、成長・繁殖に関しても、両HETマウスは正常であった。Derlin-3については、ファミリーの中で唯一、KOマウスが産まれた。KOマウスは成長・繁殖ともに正常であった。また、マウス肝臓を用いた生化学的解析から、構成因子が異なる少なくとも3種類のERAD複合体が存在し、その様態が小胞体の状態により変化することが明らかとなった。その複合体の変化はHerpによって調節されている可能性がある。
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