研究概要 |
今年度は、幾何学的フラストレーション磁性体M_2(OH)_3X(M=Cu,Ni,Co,Fe,Mn;X=Cl,Br,I)の単結晶育成を中心に行った。銅系水酸塩化物Clinoatacamiteにおいては、結晶サイズが2mm×1mm×1mm大の現在において世界最大の結晶が得られた。 Clinoatacamiteは以前の研究において、T_<N1>=18Kにおいて長距離秩序を形成、T_<N2>=6.4K以下で長距離秩序とスピン揺らぎが共存した相の存在が確認されている。しかし粉末試料を用いた中性子回折ではT_<N1>の秩序は確認されていない。今回、単結晶試料を用いた磁気測定によると新たにT_<N2>以下において、b軸方向に弱強磁性を持つことが分かった。今後単結晶試料を用いた中性子散乱実験等でこの物質非常に特異な磁性を解明することが期待される。 三角格子構造を持つCo_2(OH)_3Brは他の三角格子構造のM_2(OH)_3Xと比べて特異な性質を示すことが分かった。単結晶試料を用いた磁化率測定によると、他の三角格子M_2(OH)_3Xは単純な反強磁性転移を示すのに対し、Co_2(OH)_3BrはT_<N1>=7.7Kにおいて反強磁性転移を示し、さらにT_<N2>=2.9Kで面内方向に弱強磁性成分を持つ転移を示した。多結晶体を用いた中性子弾性散乱測定によると、T_<N1>では他の磁性体と同様な周期での転移を示し、T_<N2>では四面体構造のCo_2(OD)_3Brと同じく、T_<N1>の秩序形成サイトとは全く違ったサイトで秩序が見られ、T_<N2>以下でのスピン揺らぎの存在も示唆される。Co_2(OH)_3Brは他の三角格子M_2(OH)_3Xと比べてスピン相関の競合によるフラストレーション性が強く、詳細な比較することで三角格子における幾何学的フラストレーションの解明が期待される。
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