【研究目的】本研究では、監査人の民事責任のあり方を検討するため、フランスの会計監査役の民事責任を題材としており、本研究期間は、会計監査役の対第三者責任に関する判例・学説を中心に研究を行った。 【研究方法】会計監査役の民事責任に関する判例を翻訳し、原告ごとに倒産前と倒産後に分類し、事例ごとの特性を検討した。また、フランスの民事責任法理・倒産法制などの周辺的な研究を行った。 【研究成果】会計監査役の民事責任については従来、会社指揮者のフォート・記帳業務等を行う専門会計士のフォートと会計監査役のフォートが同一の損害に寄与したものとして捉えられており、これらの者のフォートが引き起こした損害の部分が特定された場合には「責任の分割」、特定されない場合には「全部義務」が言い渡されてきた。ところが、近年では、伝統的な判例法理である「機会の喪失」という損害概念が導入されヽ例えば、従来、会社の倒産により引き起こされた損害について会社指揮者と会計監査役の全部義務が認められていたところ、会社を倒産させたのは会社指揮者の責任であって、会計監査役のフォートは会社の負債をそれ以上悪化させなかったであろうという機会を喪失させたにすぎないものと判示されるようになってきた。この概念の導入により、フランス民事責任法上の全額賠償の原則を維持しながらも、実質的には会計監査役の責任を限定することに成功したものと位置づけられる。日本法においては、条文上、監査人は会社役員と(不真正)連帯責任を負い(会社法430条、民法719条)、後は当事者間の求償関係が問題となるが、本研究成果は、当事者間の妥当な負担割合を提示するとともに、機会の喪失類似の概念を導入することにより法文解釈上も役員らとの連帯責任を回避する可能性を示唆するものである(公表媒体のスケジュール上、年度内の成果公表とはならなかった)。
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