葉緑体に輸送された還元力は、NADPHの形でプラストキノンを還元すると推定されるため、チラコイド膜にNADPHを添加し、プラストキノンの還元をクロロフィル蛍光を指標として測定した。その結果、NAD(P)Hデヒドロゲナーゼ複合体(NDH)を経由する経路と、フェッレドキシン・NADP^+還元酵素を経由する経路が独立に存在することが明らかになった。 NADPHを破砕した直後のホウレンソウ葉緑体に添加するとプラストキノンの還元がクロロフィル蛍光の上昇として観察された。この現象は、葉緑体を高濃度のMgを含む反応液中で破砕した場合にのみ見られた。また、ミトコンドリアNDHの阻害剤であるカプサイシン、アモバルビタールで阻害されたため、チラコイド膜に存在するNDHが関与することが示された。一方、遠心分離により洗浄した破砕葉緑体ではNADPHを酸化する活性は失われていた。しかし還元型フェレドキシンを酸化する活性は残っていた。この洗浄した破砕葉緑体に見られるフェレドキシン酸化活性はMillsら(1979)により報告されているフェレドキシン・キノン還元酵素(FQR)によるものと思われ、アンチマイシンAで阻害された。ただし、この活性も部分的にカプサイシン、アモバルビタールで阻害されたためNDHに依存する活性もFQRの経路と平行して機能していると考えられる。これらの結果から、NDHのNADPH結合部位は、遠心分離による洗浄処理で容易に解離するが、in vivoでは葉緑体中に高濃度に存在するMgによって安定に膜貫通部分と結合しているものと推定される。今年度の研究で葉緑体ストロマに輸送された還元力が暗所で光合成電子伝達鎖を還元する機構を分子レベルでその概要を解明できた。
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