研究概要 |
(1)インデンテーション・スクラッチテストのモデル化 インデンテーション装置により、昨年までに得られた観察結果(サンプルの移動開始とともに圧子はより深くサンプルに食い込むこと、ある移動距離を経過したあと、圧子の食い込みは停止すること、圧子が食い込みを停止するまでのサンプルの移動距離はサンプルの移動速度にはよらないこと、食い込みに必要な移動距離はサンプルの硬さに逆比例すること)に対して,モデル化を行ない実験結果と比較した.構築したモデルは観測事実をよく説明する.モデル計算に用いたパラメータから、この挙動の背後にある変形過程が詳しく理解されるに至った.とくに動き始めの力が定常状態の動的な力より大きい事実と,モデルによるこの事実の再現性の結果から,古典的難問である「動摩擦と静摩擦の違い」の物理的意味について解釈の手がかりが得られたのではないかと考えている.なお,この結果については固体の摩擦を研究対象とした雑誌'Wear'に投稿中である. (2)波動透過実験 断層を透過する波動によって,断層の接触状態を把握し,前兆的なすべりを検出することを目的とした実験,ならびにその基礎的なデータを採取する実験を本研究の大きな柱としているが,本年度は過去3年間で得られた実験データを網羅し,そのとりまとめを行なった.この結果,断層を透過する波動は,断層の接触状態のよいモニターたり得ることが明らかとなった.すなわち,断層の応力の変化にともなって透過波動は大きく変化し,また前兆的なすべりによっても振幅,位相に変化が現れることが分かった.これらの背後に潜むアスペリティ接触の力学に基づいて,これらの現象を解釈した.すなわち,前兆的なすべりに伴って透過波動に変化が現れるのは,微小なすべりによってアスペリテイ接触の置き換わりが生じ,接触の時間効果(クリープ現象による接触面の増加)がリセットされたためと考えられる. また断層の幾何形状が透過波動に及ぼす影響を調べる実験から,これまでの波動透過モデルは透過波動の波長が幾何形状の代表的な長さの4倍程度以上の範囲で成立することが分かった.
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