研究概要 |
主要な血管病変である動脈瘤および動脈硬化発生に対する流体力学的機構を解明する.血流の変化の大きい曲管および分岐・合流部に血管病変が好発することから,脳溢血に至る動脈瘤の好発部位として脳細動脈のウイリス輪の主要部である脳前交通動脈,および動脈硬化多発部位である腹動脈からほぼ直角で非対称に分妓する腎動脈への分岐部を対象とし,血管の幾何形状に起因する流れ構造を明らかにする.とくに,血管病変発生に対する流体力学的学理を確立するため,これら血管部泣の管壁に直に作用する壁せん断応力の分布およびその勾配を病態生理学的な観点から明らかにする.さらに,血液と動脈壁の界面に位置する血管内皮細胞への壁せん断応力による機能変化を検討する. (1) 両合流管からの流量が等しい等流量比と流量が異なる不均衡流量比の場合,定常流において脳前交通動脈まわりの速度分布をレーザドップラ流速計により測定し,動脈瘤が発生する部位の回りの流動形態を把握した. (2) 前交通動脈回りの壁近傍の速度分布から算出された壁せん断応力分布から,動脈瘤発生部位の回りではその絶対値が大きく変化するとともに,その勾配が極めて大きくなることが示された. (3) 腎動脈分岐部をモデル化した直角分岐において,速度分布をレーザドップラ流速計により測定した.その結果,壁近傍の速度分布から算出された壁せん断応力は,動脈硬化が発生する部位と壁せん断応力の勾配との間に強い相関が見られた. (4) 定常流における直角分岐管において,枝管内に周期的な振動が発生することが示された.この現象は,一様流中に置かれた円柱後流に発生するカルマン渦と相似な現象であることが示された. (5) 血管内皮細胞への壁せん断応力の影響を検討するため,バックステップ後流における再付着点回りの内皮細胞の形状変化および物質取り込みの変化を検討している.その結果,動脈硬化が発生し易いとされる再付着点近傍でのそれら挙動の著しい変化を明らかにしている.
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