本年度は、学習前の子どもの素朴概念を調査するための問題の定式化及び調査を実施した。主な問題は、ろ過、水溶液、溶解、中和、熱、水溶液の飽和、体積、燃焼、イオン、酸などに関わるものである。そのうち、ほとんどのものは調査を終えているが、現在実施中のものも二〜三ある。これまでに明らかになった知見を列挙すれば、次のようになる。ろうそくが燃えるのはしんが燃えているからである。同じ重さのスポンジと小石を比べると小石の方が大きい。同じ濃さの砂糖水を同じ量だけ混ぜると濃くなる。水が入った傾けた円筒の管のまん中を熱すると傾いた上半分しか熱くならない。食塩水をろ過すると水になる。理科の授業は、こうした素朴概念をいかに科学的に適切なものに変容させるかであると考えられるので、素朴概念を理科授業に導入する五つのモデルを著書の中で提案した。目下、授業モデルの精緻化と実施計画を作成中である。 また、本年度は、素朴概念研究が理科教育学研究にもたらした成果を、次の五点にまとめた。(1)「つまずき」の中身の明確化。(2)未知の素朴概念の解明。(3)実態から遊離した授業の顕在化。(4)授業や学習における問題点の明確化。(5)目的・目標に対する根元的な問いかけ。さらに、子どもの素朴概念の主な特徴として、子ども固有の説明、用語の意味の混同、子ども固有の論理-慣性を明らかにし、子どもの考えを変容させるための要因について考察した。 来年度は、考案した理科授業モデルを使って素朴概念を変容させるための授業の実施を中心にして研究をすすめる計画である。
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