本年度は、素朴概念の調査に関しては、「豆電球の直・並列回路」及び「水溶液の希釈」などを事例にして行った。前者の結果からは、適切な回答は中学校2年生(N=168)の学習前後において14%から33%に変化するが、中学2年生の学習後と大学生(教育学部、N=97)ではあまり差がないこと、直列及び並列回路の相違が学生でもよくわかっていないことなどが明らかになった。また、後者の結果からは、塩酸の入った液を水で二倍に薄めると「酸性が強くなる」と考える者が中学3年生(N=105)で6%、工学部学生(N=208)で3%いることがわかった。この考えは、学習により引き起こされることが明らかになった。 授業に関しては、中学校のイオン概念を事例にして子どもの素朴概念を活かした26時間の授業を実施した。そこでは、従来から行われてきたイオン概念をいきなり与えるのではなく、素朴概念を活かすというボトムアップ的方法を単元の前半で実施し、生徒がイオンについてどうしても知りたいという欲求を持ったときにイオン概念をトップダウン的に与えるという方法をとった。その授業効果や学習効果をみるために、イオン概念に関するコンセプトマップを学習前・後に書かせ生徒自身に比較させる方法を導入した。その結果、コンセプトマップのこうした利用法は、生徒の認知面及び情意面の自己評価に有効であること、また教師の授業評価にも活用できることが明らかになった。さらに、こうした生徒の素朴概念を活用してボトムアップ的に、学習の必然性が引き出された時点で学習内容をトップダウン的に与え授業を構成する方法は、たとえ生徒にとって理解が難しいと言われてきたイオン概念であっても、認知面、情意面の両方において好意的な評価が得られることが明らかになった。
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