将来の大型代替エネルギー源として期待される宇宙太陽発電衛星にとって、送電用マイクロ波ビームを正確に受電点に集中させる技術は最も重要な技術のひとつである。本研究において全く新しいレトロディレクティブ・アンテナ・システムを提案し、実際に設計・製作し、実験によりその有用性を実証した。 本研究で提案したシステムは、受電点から送電側に送信されるパイロット信号の周波数を送電波の半分の周波数とした。このため従来から問題とされた送電波出力位相の不確実性を完全に除去できる信頼性の非常に高いシステムが実現できた。また、パイロット信号の位相検出部と送電波側部を独立させたため、受信したパイロット信号の振幅の変化が、送電波の位相制御に影響を及ぼすこともなく、高利得のマイクロ波増幅器も不必要となった。検出部の出力はデジタル信号であるため、コンピュータ制御と組合せ位相ずれの解消、自由にビームの走査や完全にコンピュータのみの制御をおこなうことができるたいへん柔軟性のあるシステムを実現することができた。 新システムでは、位相共役回路をミキサ-、移相器、DC増幅器で構成し、パイロット信号位相検出用2.9GHz5bit移相器、送電波位相制御用5.8GHz4bit移相器、パイロット信号受信アンテナ、送電アンテナ、ミキサ-、2逓倍器、電力分配器の設計、製作をした。全ての回路は小型化、軽量化を考え、送電アンテナを含み一体構造とした。新しいレトロディレクティブ・アンテナ方式を実証するために、4台のサブアレイ・アンテナを作製した。サブアレイの位置が変化しても受電点での送電波の位相が変化しないこと、およびマイクロ波エネルギーが常に集中できることを実証した。すなわち送電波の位相が設計どおりに制御されていることが確認された。
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