研究概要 |
本研究は現象学研究の新しい動向であるシュミッツの「新しい現象学」つまり、「身体と感情の現象学」を踏まえつつ、他方において近年ますます豊かな展開を遂げている社会の集合心性論(デュルケームやマルセル・モースに発するフランス社会学や雑誌『アナール』によるル・ゴフやルロワ・ラデリューらの人類学的な歴史学やドイツでは雑誌『歴史と社会』によるヴエーラーやコッカらの社会構造史を中心とした研究)を深く哲学的に究明しなおして、この両者を独自の仕方で統合することを目的としていた。 第二年度においては、1) フッサールの共同主観や主観性の理論、さらに最近の人類学的歴史学や社会構造史の成果を具体的に検討し、集合心性の概念を洗い直し、集合心性の現象学理論の体系化を企てた。現象学的哲学という専門分野を越え出て、むしろ社会学、民族学の集合心性の概念をも探究した。 2) 諸科学に分有されている集合心性理論を全体として可能にしている概念がどのような仕方で現象学的ないみをもつのかを検討した。 3) 初年度の研究の成果にもとづいて、集合心性の現象学の具体的な体系化を企てた。それは、集合心性が雰囲気としても、人間の世界における住み込み方としても明らかになった。ハイデッガーの"Bauen,Wohnen,Denken"なども考慮して雰囲気が家や住まいのなかに満ちあふれており、また、町の形成の仕方などにも表現されていることが示された。またデュルケームの宗教学的な研究をも考慮して、そこに見い出される社会の全体性の理論が実は集合心性論になるということが明らかにされた。
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