写本Munich clm14779およびParis BN lat.7094Aに含まれるlogica vetus注釈が、これまでよく知られていたParis BN lat.13369所収のものと同様にアベラールの手になるものであること、これを示すのが本研究の目的であった。その目的にむけての今年度の主要な研究実績として、次の二つをあげることが出来る。 1)12世紀に書かれた現存全logica vetus注釈を調査し、その前書き部分のある特徴を共有する著作は同一著者の手になる可能性が非常に高いことを示した。(ちなみに、アベラールの著書であると思われる上記3写本中の諸注釈はすべて、この前書き部分の特徴を共有している)。この結果は、Prologues of Commentaries on the Logica vetus Literature in the 12th Centuryと題し、1997年10月のArtes liberales集会で口頭発表し、来年度のDidascalia誌上で公表する予定である。 2)アベラールの師でかつ論争相手でもあったシャンポーのギョ-ムには、論理学著作はほとんど知られていなかった。岩熊は、しかし、一連の無名氏で伝えられたlogica vetus注釈がギョ-ムの手になる可能性が非常に高いことを示し得た。これが正しければ、上記アベラールの新著作とともに、アベラールとギョ-ムが戦わせた論争の具体的内容を知る新資料となる。これらの成果は、1998年3月25-26日パリで開かれる予定のLes echanges philosophiques et scientifiques dans les ecoles du XII^e siecle学会で、Pierre Abelard contre Guillaume de Champeaux dans les premieres annees du XII^e siecleと題して、発表予定である。
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