出版譜と未出版譜を含めて武満徹の楽譜ならびに単行本と雑誌等に発表された武満の著述を収集し、武満の「音の身ぶり」として通底するものと、その中で変化する要素とを考察した。その結果、旋法的旋律と、それに半音で付着するようにして作られたクラスター的な響きとが、武満の初期作品から晩年にかけて共通するイディオムとして挙げられる。半音階的、無調的旋律にクラスターが付着する作品も、機能的に拘束されない音高の連なりという点で、そのイディオムの延長上にとらえられる。旋法的旋律、無調性、クラスターという西欧の前衛音楽の諸手法と重なりながらも、武満におけるそれは、歴史的脈絡と方法意識において西欧におけるそれとは異なることがそこには示唆される。 旋法的旋律とクラスターとが組み合わされたイディオムは、武満の中で作品ごとにヴァリアントを生じる。たとえば、旋法的旋律が(1)順次進行するもの、(2)跳躍音程をはさんで急激な旋律進行を行うもの、あるいは、旋律進行に伴って、クラスターの密度が(3)ほとんど変化しないもの、(3)音高数の少ないうすいテクスチュアから、微分音を含んで音高数の多いテクスチュアに膨れ上がってクラスターの密度が幅広く変化するもの、などである。それらのヴァリアントの中に武満の「音の身ぶり」のさまざまな表れが示唆される。次年度は、今年度入手できなかった映画音楽の楽譜も可能な限り収集し、音楽外的な要素と、音の身ぶりとの相関関係を考察することを課題とする。
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