本研究助成によって本年度に得た成果は以下の通りである。 まず、文体に関していえば、上方戯作を通じて、説明的で粘りの強い文体が、ジャンルを問わずに遍在することの確証がより深まった。そのような、言わば「上方文体」からの離陸が、文運東漸以後の江戸戯作のひとつの課題となったようでもあった。これは、別の見方をすれば、「受ける文体」の模索ということでもあり、すでにして「笑い」の質は、上方と江戸で大きく変わっていたのである。以上の考察に関わる一端として、「式亭三馬における「ふり」」(裏面参照)をまとめた。 ジャンルは、近年の戯作研究が総体的に関心をもっている課題(拙文「平成八年国語国文学会の展望[近世]小説V」、『文学・語学』第157号参照)のひとつであり、多くの新しい成果が見られる。そのような趨勢にあって、特に後期戯作におけるジャンルの問題の再整理が望まれる。本年の本研究では、先に発表した拙論「<講話本>考--平賀源内の戯作を中心に、ジャンルの論として」を大きく出る成果をまとめ切れなかったが、なお、新たな展望を得られるべく考察を進めたい。 出版システムに関して、とくに三都の中でも資料の充実した大阪の江戸後期の出版界について、再整理を進めている。本研究助成内定以前の成果ではあるが、「小本型談義本出版の背景一斑--山金堂、変じて山釜堂となる」(『国文学』97年9月号)は、江戸の版元に関して、その成果を適応したものである。 また、戯作者個人に関していえば、上方戯作文化圏から出発し、江戸戯作に多大な影響力をもたらした風来山人の存在が、よりクローズアップされるに至っている。 以上の成果を基に、次年度以降に展開させていく所存である。
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