研究概要 |
研究2年目の本年度は、当初は前年度に収集した資料をデータベース化し、具体的な比較検討を行う予定であったが、収集したデータが一定の方向性を示すほどの量に達していないこと、英国の言語文化戦略においてTony Bex,David Graddolを中心とする新しい動きが見られたことなどから、資料収集を継続して行った。研究分担者(斉藤)の調査によれば、英国の新しい考え方は、従来の英語帝国主義的な対外的な戦略を「英語の多様性」という一見リベラルな思想に包み隠して行う疑似帝国主義的な語学戦略からも脱却を図ろうとするものである。Graddolの研究によれば、2050年頃に英語話者の世界的な増加が頭打ちとなり、それ以降、英語の世界的需要が衰え、それに代わって世界各地の弱小言語が見直されるようになるという。共通語としての地位をかろうじて保っている英語も、すでにスタンダード英語という核を失い、一種のドーナツ化現象が起きていると考えられる。この新しい考え方が今までの言語文化戦略をどう取り組んでいくかは、来年度も引き続いて調査する予定である。研究代表者(林)が研究を進めている米国の言語文化戦略に関しては基本的に仮説通りであるが、アメリカの文科系アカデミズムにおけるアメリカ的カルチュラル・スタディーズの益々の隆盛と少しづつ現れ始めた冷戦期時代におけるアメリカ的ディスコースの研究など、興味深い資料を収集できた。平成11年度においては引き続き資料を収集すると同時に、それらの比較検討を行い、研究成果をまとめる予定である。
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