本研究最終年度に当たる今年度においては、平成9、10年度に収集した資料の比較検討を行なった。平成9年度においては、英米それぞれの言語政策に関する資料収集を行い、平成10年度においては、前年度に集めたデータが一定の方向性を示すほどの量に達していないこと、また英国の言語文化戦略において、Tony BexやDavid Graddolを中心とする新しい動きが見られたことなどから、資料収集を継続して行い、2050年ころには共通語としての地位をかろうじて保っている英語が、すでにスタンダード英語という核を失い、一種のドーナツ化現象が起きるとのまったく新しい知見を得たが、今年度は、さらにそのような未来予想図に対して英米がどのように反応するのかを検討した。3年にわたる研究の結果わかったことを単純化して言うと、英国が従来の英語帝国主義的な対外的な戦略を「英語の多様性」という一見リベラルな思想に包み隠して行う擬似帝国主義的な語学戦略からも脱却を図ろうとしているのに対し、米国は黒人英語(イボニックス)の認定をはじめ、国内の言語政策を強化する一方で、その政治・経済力ゆえに労せずしてアメリカ英語が世界的に展開していくのを静観しているという図式になる。さらに、このような知見に基づき、英米文化のイデオロギー支配を受けない新しい英語文化の在り方についての提言を行なったが、これは今後も継続して行なう予定である。
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