1)本年度はまず、今後の比較研究を展開させるため、既存のインドの工場労働者に関する職務意識につき、その個票データの利用可能性ならびに比較対照可能性をめぐって、広く国内外の類似調査の吟味を行った。その結果、マッチング手法やEvent-history理論などの活用により、十分な展望をえた。 2)現在、中国企業の調査を企画中であるが、費用の問題等もあり、実現するかどうかはまだ分らない。もし実施が困難となった場合は、一昨年度に実施した別の調査を、本研究課題の観点から改めて整理し直し、比較検討することを考えている。 3)先行研究の文献サーベイに関しては、本年度は主に中国に関するものについて行った。近年は、日-中や日-韓比較の分野で大きな進展が認められる。中-印比較の先行研究は存在しないようであるが、比較の視点を単に中間管理者層の役割だけでなく、より積極的な比較の軸を設定する必要があることを、我々の場合にも痛感した。 4)インドの日系企業との比較対照群として、インド在来部門の場合の分析結果を、我々は「強い宗教は労務管理の妨げとなるか-インドのU.P.州ク-ルジャにおける工場調査から-」(『大原社会問題研究所雑誌』No.463)にまとめた。伝統的企業にあっては、一般に職務意識の近代化(機能主義)度はあまり高くないが、それでも中間管理者層のそれは、労働者からは明瞭に区別されうる。ただし宗教や性差など個人の属性に関する差異は、大きく反映されていないことなどが知られる。職務意識の水準などは、今後比較研究を通じて、より明瞭に把握されうるようになるものと思われる。
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