1)1990年代に入ると、発展途上国でも市場経済化や市場の自由化が急速に進展する。したがってそれに伴い途上国の企業もまた、大幅な改革や競争力の向上にむけた新たな組織的対応を追られることとなる。それを中国の国有企業の改革や、インドでの合弁企業の経営的適応化などの問題を通して、具体的な適応の成功要因や決定要因を探ることが、本研究課題の主要な目的であった。 2)より具体的には、そうした企業改革や経営移転の達成度を職務意識の面から、とりわけ大きな鍵を握る中間管理者層の職務意識の変容面から捉えようとするところに、本アプローチの大きな特色がある。そしてそれを論証すべく我々は、中国・武漢市やインドのニュー・デリー市などで職務意識に関する工場調査を行った。またそれらとの比較の準拠枠を構成すべく、日本における海外進出企業の本社工場でも、いわゆる「日本的経営」の浸透度に関する調査を同時に行った。 3)それらの調査結果を数量化したうえ、判別分析を行った結果、我々は次のような結論をえた。(1)企業の改革や市場自由化への適応は、制度や組織などの改変よりも、むしろ経営者や労働者の意識の変革の方が決定的に重要であること。(2)そうした意識の変容は、賃金など労働条件の改善よりも、教育水準の高低の方がより大きな効果を有していること。(3)またいわゆる「日本的経営」の導入には、価値観の変容を要するため、企業内教育などを行い、長時間かけて実現されざるをえないことなどが明らかにされた。
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