研究概要 |
グローバル化の下で国家と市場の関係がどう変化したか,すなわち国家の政策の有効性はどう変化したかについて検討した。「I.現状分析の深化」としては,97年に勃発した東アジア通貨危機をグローバル化の帰結としてとらえ,国家-市場関係の変化について考察した。「II.,国際政治経済学の諸潮流の整理」では,国際政治経済学の第一人者であるS.ストレインジの諸説を検討した。得られた知見を要約すれば以下の通りである。 1.グローバル化の起点がブレトンウッズ体制の葬送と資本規制の撤廃に求められることを明らかにした。 2.系諭として,1997年に勃発した東アジア通貨危機が個別の国内事情以外に,グローバル化要因を無視できないこと,またすべての国・地域が通貨危機の危険性を逃れていないことを示した。グローバル化の下での通貨危機の第1号はレ-ガノミクスのアメリカであり,「ニュー・エコノミー」論の説くような繁栄を謳歌しているかに見える90年代末のアメリカも,このグローバル化の諸力から自由ではない。資金流入→バブル化→経常収支悪化の段階をたどりつつある点を強調したい。 3.ストレインジによれば,グローバル化は世界経済における権威を拡散し,その領城内で社会・経済関係におよぼす国家の支配を確実に弱めている。今や,国際政治経済の中核には真空が生まれ,これは共通利益のために指導力を発揮する政府間機構などの制度やヘゲモニック・パワーによって適切に埋められていない。裏の世界のグローバル化はマフィア組織のネットワーク化を急展開させ,巨大監査法人は徴税を代行するまでにいたった。グローバル化は影の主役たちの存在を浮上させつつあるが,これらはいずれも組織内の民主的なガバナンスを欠くものばかりである。
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