研究概要 |
1. 平成9年度には連続かつ非加法的な流入を伴うダムに対する一つの確率モデルを提案した。そして「ダムの貯水量を記述する確率過程が極限分布を持つための条件を決め,またその極限分布の特徴付けを与えよ」という問題を提起し部分的結果を得た。平成10年度には,ダムの確率過程に埋め込まれたマルコフ連鎖に着目しその数学的構造の解明を進めた。特にこのモデルでは,独立な確率変数T,Vが与えられたとき,それらと同じ分布に従う,互いに独立な独立同分布確率変数列{T_n},{V_n}を基にして,区分的に一定な流入率に従う流入過程を決める。そして貯水量の関数として与えられる放流率が線形(1次関数)および非線形(2次関数)の場合に,ダム過程の具体的表現を与えた。さらにダム過程に付随するマルコフ連鎖が,いずれも1次分数変換に関する確率漸化式,従ってランダム行列で特徴付けられることを示した。そして特に,線形の場合のマルコフ連鎖の極限挙動を研究し,以下のような興味ある知見を得た。(1)マルコフ連鎖が極限分布を持つための条件が,Vの分布のみの言葉で記述される。(2)極限分布は或る積分方程式で特徴付けられる。(3)極限分布は定常分布である。(4)極限分布は絶対連続,連続特異,退化のいずれかである。(5)極限分布が絶対連続であるためのTの分布に関する十分条件を与えることができる。 2. 統数研(6月)および岡山(1月)での研究会で講演し,M.Taqqu,佐藤健一,山里,渡部,山田敬吾氏らとの間で議論をした。11月には台湾でのシンポジウムで講演し,外国人研究者との議論を行った。その成果は論文[K.INOUE and N.TAKAYAMA: A Stochastic model for a dam with non-additive input]としてまとめられ,Trends in Probability and Related Analysysに投稿中である。
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