研究概要 |
本年度は1910,1943-1945,1977-1982年の噴火活動において水蒸気-マグマ水蒸気爆発が一時期に繰り返し発生した有珠山を対象に研究を進め,次の結果を得た.(1)既存の坑井資料によると,この地域の容水層は現河床堆積物から基盤をなす新第三系にまでわたっていた.また,これらの容水層の有効透水係数は地質年代とともに小さくなる傾向を示し,その変化は6乗のオーダーにも達した.有効透水係数で比較すると,容水層は完新統(1000〜10e-3cm/s),更新統(20〜1e-3cm/s)および新第三系(1〜0.001e-3cm/s)に3分された.(2)電気検層データによると新第三系の見かけ比抵抗は10ohm-m以下を示し,第四系に較べて著しく小さい.また,透水性の高い更新統には100ohm-m前後の見かけ比抵抗を示す数層の透水層が識別された.(3)既存の電気探査および新たに実施したMT探査からは,新第三系に対比される10ohm-m以下の低比抵抗層が最下層として解析され,その深度は有珠山に向かって浅くなる傾向が認められた.また,1977-1982年の活動において新山が形成された火口原では浅部に貫入マグマを示唆する高比抵抗体が,深部にはマグマ溜まりを示唆する低比抵抗体が解析された.(5)推定された水理地質構造と主に測地データから見積もられた1943-1945,1977-1982年の水蒸気-マグマ水蒸気爆発の発生時におけるマグマの深度を比較すると,水蒸気-マグマ水蒸気爆発に関与した容水層は透水性の良い更新統〜上部新第三系に同定された.(6)予備的な試みとして簡単な一次元2相流モデルを用いて,マグマと接触した容水層内の圧力変化を調べたところ,不透水層では水の沸騰により生じた圧力がシールされ,地層の破壊強度を越えるまで圧力が上昇する可能性が見いだされた.
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