研究概要 |
島弧の地質環境における浅熱水性金鉱化作用は,成因的に主に低硫化型および高硫化型金鉱化作用の二つに区分される.従来,低硫化型金鉱床の研究はかなり詳細に行われてきたが、一方で高硫化型金鉱床はその胚胎母岩が塊状珪化岩で産状が不明瞭などの理由から,成因的な研究の立ち後れと低硫化型金鉱化作用との時空的・成因的関係が必ずしも明らかにされてはいない.そこで本研究では,特に高硫化型金鉱床の成因と低硫化型金鉱床との時空関係の解明を目的として,小樽赤岩・札幌春香山・鹿児島赤石鉱山などを例に野外調査および各種室内実験を実施した. 今年度は、主に赤石鉱山を対象に坑内観察および室内実験を行い,特に塊状珪化岩と金鉱化作用の時空的因果関係を明らかにすることを試みた.その結果,塊状珪化岩は空間的に上方に開くロート状を呈し,周囲は酸性変質帯に取り囲まれ,さらに外側の母岩側に向かい中性変質帯へと移化する傾向があることが判った.この事実は,塊状珪化岩を形成した活動熱水が初生的には強酸性条件であった事を示唆する.一方,金の沈澱を伴う玉随質ー陶器質石英脈は塊状珪化岩を切り,より後期の産物であることも明らかになった.これらの珪化岩および含金石英脈中の鉱染状あるいは塊状黄鉄鉱の硫黄同位体比は5‰前後と重く,活動熱水が天水起源ではなくマグマ起源である可能性を強く示唆している. 小樽赤岩の事例では,同様に塊状珪化岩の形成は金鉱化作用に先行し,強硫酸酸性熱水による溶脱作用の産物であると推定された.しかし,金鉱化作用をもたらした後期活動熱水は弱酸性ー中性の天水起源と考えられる.春香山においても、高・低両硫化型金鉱化作用が近接(約500mの距離)して観察され,両鉱床の形成年代もおよそ5-6Maとほぼ一致している。ここでも高硫化型金鉱化作用が低硫化型に先行して生じていることから、熱水系が初期のマグマ性から後期の天水性のものへと次第に変化した可能性が強く示唆される.
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