本研究の目的は、ミトコンドリアDNAおよび高多型性DNAマーカーを用いて、イリオモテヤマネコ・ツシマヤマネコ集団がこれまでにたどってきた進化の過程と両者の集団内多様度を理解することであった。2年間の計画において、以下の成果が得られた。 (1) ミトコンドリアDNAのなかでも進化速度が速いといわれるD-loop領域を分析した。イリオモテヤマネコに適合するPCRプライマーをデザインし、PCRダイレクトシーケンス法により塩基配列を解読した結果、イリオモテヤマネコ集団内では個体変異が全くみられなかった。 (2) 高多型的マーカーであるマイクロサテライトDNA領域の多型分析により、イリオモテヤマネコ集団およびツシマヤマネコ集団の遺伝的多様性が極度に低下していることが示唆された。この多様性低下は、両集団が島に隔離されていた期間(各々、約20万年、10万年)に起こった遺伝的浮動または近親交配によりもたらされた可能性がある。 (3) 別の高多型的DNAマーカーである主要組織適合遺伝子複合体(MHC)ClassIIのDRB遺伝子について、遺伝子増幅法(PCR)によって対立遺伝子の検出を試みた。PCR産物をクローニングし、塩基配列を決定した結果、イリオモテヤマネコ、ツシマヤマネコ、ベンガルヤマネコから複数の対立遺伝子が得られた。現在、塩基配列の分子系統学的解析を継続している。 (4) 環境庁対馬野生生物保護センターとの研究協力体制を整えると共に、同センターの展示室においてヤマネコのDNA分析に関する展示を行い、研究成果を一般に公開した。
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