(1) 甲状腺機能亢進症を発症したマウスの脾細胞をRT4.15HP-TSHRを抗原提示細胞としてインターロイキン2の存在下に刺激を繰り返して、TSHR特異的T細胞株を樹立した。このT細胞株は、RT4.15HP-TSHR刺激によって増殖したが、クラスII分子を発現していないDAP.3-TSHRに対しては増殖しなかった。すなわち、RT4.15HP-TSHRは抗原提示細胞として、細胞表面上のクラスII分子がTSHRペプチドをT細胞に提示している可能性が強く示唆された。この結果は、通常はクラスII分子を発現していない甲状腺濾胞細胞がクラスII分子を異常発現するすることが、刺激型抗TSHR抗体の産生を開始あるいは増強する可能性を示している。 (2) マウス繊維芽細胞RT4.15HP細胞に、甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)遺伝子と分子的に相同性を有するラットの黄体形成ホルモン・絨毛膜性性腺刺激ホルモンレセプター(LH/CGR)とTSHRとのキメラレセプター遺伝子を導入・発現させた。導入するキメラレセプターは、TSHR細胞外ドメインのN末側をLH/CGRで置換したキメラレセプター(Mcl+2)およびTSHR細胞外ドメインのC末側をLH/CGRで置換したキメラレセプター(Mc4)を用いた。これらのキメラレセプターを発現するRT4.15HP細胞をAKR/Nマウスに免疫して抗TSHR抗体産生を検討したところ、Mc4発現マウス繊維芽細胞の免疫では、抗TSHR抗体の産生が認められたのに対し、Mcl+2発現繊維芽細胞の免疫ではまったく抗TSHR抗体が誘導されなかった。以上から、抗TSHR抗体産生にはTSHR分子上のN末側がきわめて重要であることが明かとなった。また、キメラレセプターを発現する繊維芽細胞に対するTSHR応答性T細胞株の応答性から、すくなくともTSHR上の下細胞エピトープが細胞外ドメインのN末またはC末領域にのみ存在しない可能性が示唆された。 (3) 免疫に用いた繊維芽細胞上にはCD80(B7.1)は構成的に発現していた。そこで、さらにCD86(B7.2)遺伝子を繊維芽細胞に導入して、CD80およびCD86を発現する繊維芽細胞株を樹立した。この細胞株にTSHRを発現させて免疫を行ったが、甲状腺機能亢進症を発症するマウスの頻度は変化しなかった。また、甲状腺組織障害像も観察されなかった。以上から、CD86分子の刺激型抗TSHR抗体産生に及ぼす効果は明らかにできなかった。
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