平成10年度は乳癌の薬物療法剤に対する感受性が予測可能であることを明らかにするために内分泌療法剤を中心に検討した。乳癌根治手術で得られた乳癌組織を内分泌療法剤、estradiol(E2)あるいはtamoxifen(TAM)とともに培養し、乳癌組織中のprogesteronereceptor(PgR)の発現量の変化をcoamplificationPCR法を用いてPgRmRNA発現量の変化として定量した。 PgR発現はestrogenを作用させるとestrogenreceptor(ER)を介して誘導されることが知られている。今年度の研究で、乳癌組織をE2、TAMとともに24時間培養するとPgRmRNA発現量はER陽性の症例から得られた乳癌組織では増加するが、ER陰性の乳癌組織では変化が見られないことを明らかにした。この結果は24時間と言う短時間に乳癌組織の薬剤感受性が予測可能であることを実証した。さらに培養の実験条件を整備するために乳癌組織の培養に用いる牛胎児血清中の内因性estrogenの影響についても検討した。牛胎児血清中の内因性estrogenが存在しても、乳癌組織が添加した内分泌療法剤に反応してPgR発現が誘導されることを確認し、市販の牛胎児血清を用いた簡単な培養系で簡便に内分泌療法剤に対する感受性を明らかに出来ることを示した。以前に報告した乳癌組織中の副甲状腺関連ペプチド(PTHrP)のmRNA発現量の内分泌療法剤による変化とも比較し、酢酸メドロキシプロゲステロン(MPA)によるPTHrP発現の抑制がERを介さず他のステロイドホルモン受容体を経由することもあわせて明らかにした。術後の補助内分泌療法剤として多く用いられるTAMはPTHrPmRNA発現を抑えないことも本研究で判明し、乳癌組織中のPTHrP発現が高く骨転移の可能性が高い症例に投与する補助内分泌療法剤にはTAMよりもMPAが有用である可能性を示した。
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