研究概要 |
本研究は,歯周病同様に慢性炎症病巣を形成するHelicobacterpyloriのリピドAを用いて,宿主に対する免疫生物学的作用および細胞レベルにおける刺激伝達機構を歯周病の原因菌とされるPorphyromonasgingivalisリピドAのそれと比較検討することにより,その構造と機能の共通性を明らかにしようとした.また,これら慢性炎症を惹起する病原細菌リピドAと強毒素性の大腸菌やサルモネラ属菌由来のリピドA刺激による生物学的活性や細胞内情報伝達系の異同を調べることにより,最近問題になっている易感染性宿主におけるグラム陰性菌による敗血症性ショックに対する細胞内情報伝達系について調べた.その結果,1) P.gingivalisリピドAと同様にH.pyloriリピドAは,大腸菌型合成リピドA(化合物506)に比べてヒト末梢血単球およびマウスマクロファージからのTNF-αおよびIL-1βの産生誘導能は弱かった.なお,IL-6産生誘導は,化合物506よりやや弱いものの明確なサイトカイン産生を示した.同mRNAレベルにおいても同様な所見が得られた. 2) ガラクトサミン負荷マウス由来の肺胞マクロファージからのサイトカイン産生に対する種々のプロテインキナーゼ阻害剤の影響について調べた.その結果,P.gingivalisリピドA刺激によるIL-1β産生誘導は,カルモデュリン(CaM)阻害剤により特異的に抑制された.これらサイトカイン産生の抑制と同様の結果がmRNAレベルにおいてもみられた. 3) CaM活性化剤や抗IL-1β抗体により,化合物506によるマウス致死活性を抑制する効果がみられた. これらの結果から,グラム陰性菌による敗血症性致死活性は,その宿主の細胞内情報伝達系を調節することにより回避できることが示唆され,今後のエンドトキシンショックを含めた敗血症の予防や治療に応用されることが期待される.
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