研究概要 |
「標本サイズNを十分大きくとると帰無仮説は必ず棄却される」という経験則がある、有意水準αの検定は,帰無仮説H_0の下では,Nに関わらず100(1-α)%の確率でH_0を棄却しないはずである.しかしながら,標本サイズNを十分大きくとれば,ほとんどの場合H_0は棄却される.仮説H_0を棄却したければNを十分大きくとってやればよいということになり,これはデータに基づく科学的判断ではなくなる.統計解析の誤用・悪用の一例である.このような問題はほとんどの仮説検定問題で起こる. 本プロジェクトでは,モデルの適合度検定において上記問題を研究している.因子分析モデルの適合度検定は,母集団の共分散行列をΣとしてH_0:Σ=ΛΛ′+Ψ versus H_1:Σ is not restricted となる.H_0が棄却されないならばこのモデルはデータに矛盾しないと判断する. モデルは現実の近似でありデータは対立仮説から採られているという状況を考える.有意水準αの検定においてγ(α<γ<1)を与え,次の量を定義する. N_<α,γ>:=H_0が確率γ以上で棄却される最小の標本サイズN N_<α,γ>は,ある意味で,モデルの帰無仮説からの距離を表している.実際,N_<α,γ>が大きければ真値は帰無仮説に近く(従って大きな標本サイズが必要になる),小さければ帰無仮説から遠いことになる.適合度検定の場合はN_<α,γ>の大小でモデルの良さを測る,すなわち,N_<α,γ>が大きければ良いモデル,小さければ悪いモデル,ということになる.現在,この指標の推定方法を研究しており,ブートストラップ法が有用な方法論を提供すると考えている.
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