研究概要 |
1.目的 多くのグループが独自に水蒸気あるいは液体水における荷電粒子とりわけ電子飛跡生成コードを開発しているが,用いられている断面積データは様々である.データの正当性を確かめる直接的手段はないが,相対的比較は可能である.筆者らになる水蒸気コードKURBUCを用いて断面積データのベンチマークを行った. 2.断面積データ (1) 電離:数種の実験値を最小自乗フィットし,モデル関数で近似した.100eV近傍のピーク値はKURBUC原データ(Paretzkeと同じ)より約10%大きい.電離による二次電子スペクトル,つまり微分断面積の実験値は少ないので理論値を用いた.Jain-Khare,Born-Bethe,Gryzinski,Kim-Ruddらによる理論があり,それらをSeltzer理論に基ずくKURBUC原データと比較した. (2) 励起:個々の励起レベルについての実験値は散発的であり,しかも不十分なので,全断面積および平均励起エネルギーにのみ注目した.Paretzke,Olivero et al,Zaider et alらが実験値を基にまとめた経験式とそのパラメータを用いて計算を行った. (3) 弾性散乱:いくつかの実験値と理論値をまとめて多項式近似し,これとKURBUCおよびParetzkeのデータを比較した. 3.結果 調べようとするデータのみを入れ換え,残りのデータは固定して飛跡を計算し,その物理的特性(相互作用頻度と吸収線量の動径方向分布)の差をテストする,という方法によってベンチマークを行った.これにより,飛跡構造に最も影響を及ぼす因子は電離断面積とりわけ二次電子スペクトルであることが明らかになった.一方,励起と弾性散乱についてはいかなる断面積も飛跡構造に顕著な差を生じなかった.
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