研究概要 |
転写因子Otf6はクラスIIIのPOUホメオドメイン遺伝子群の一つである。この遺伝子は胎生期の初期から発現しており、脳では大脳皮質の2/3層や5層および海馬のCA1領域で発現している。また近縁の遺伝子が脳で発現していることなどよりこの遺伝子は脳機能の獲得維持に役割を果たしていることが予測されている。この遺伝子の一部を欠失した形でのミュータントは生後すぐに呼吸機能の異常により死亡する。ところが転写因子のOtf6遺伝子座をほとんどすべての領域にわたって、相同組み替え法を用いて欠失させるとホモザイゴートは胎生初期に致死となる。形態学的にはワイルドタイプと比較してサイズの小さい構造の不規則なホモザイゴートが観察された。またブラストシストの培養ではICMの増殖の低下および一部には24時間以内での消失が観察された。以上の結果およびブロモデオキシウリジンの取り込みの低下が見られることから、ホモザイゴートの胎児では胎生初期の非常に細胞分裂の活発な時期に細胞周期の停止が起こっている可能性が示唆された。RT-PCRにより細胞周期の調節に関連している遺伝子の発現を調べるとcycd1,mdm2は発現が低下していたがBrca1には変化はなかった。したがってOtf6遺伝子座の欠失による致死は細胞周期の制御に異常が起こりG1期で細胞増殖の制御が生じた結果によるものと考えられる。 この遺伝子の成体での機能を調べるためにCre-loxPを利用したコンディショナルノックアウトマウスの作成を試みた。Otf6遺伝子座を挟みこんでloxPを二箇所持つマウスを作成しgermline transmission を確認した。またCre発現マウスについてはニューロン特異的に発現するneuron specific enolaseのプロモータを用いたcell type specificな発現と、ホルモンレセプターのリガンド結合ドメインを融合させたCre recombinaseによる任意の時期での活性の制御が行える3種類のコンストラクトを作成しトランスジェニックマウスを作出した。現在、これらのマウスを用いて交配を行い発現の特異性を確認している。
|