本研究では、人間の文理解メカニズム、特に日本語理解様式の特性を明らかにすること、また、欧米言語で既に得られた知見と日本語におけるデータとの異同を比較言語心理学的見地から検討し、より普遍的な文理解モデルを提案することを目的としている。この中で平成9年度は、まず同意を得た大学生のべ100-200名程度を対象とした。語句の意味的適合度を測定する調査を実施し、実験刺激文作成のために必要な基礎データを収集した。さらに、このデータに基づき、文理解途上で生起する特定の読み誤り(ガ-デンパス効果)を定量的に取り出すための、探索的な2つの実験を試みた。のべ48名の同意を得た被験者について、反応時間測定法により行われた実験の結果、文中の目的語の有生性が異なることによって、ガ-デンパス効果(文理解途上で生起する特定の読み誤り)に違いがあることが明らかになった。この知見は、欧米言語に基づく理論では予測され得なかった事実であり、人間の文理解メカニズムについて、日本語に基づく新たな普遍的モデル定立の必要性を示唆することができた。さらに、語彙決定課題による追加的実験を試みたところ、目的語の有生性により、直後の動詞のアクセス時間にもガ-デンパス効果と同様の効果が現れることが新たに明らかになった。以上の研究結果に基づき、名詞からの予測可能性、あるいは予測の広さが、人間の文理解をガイドするひとつの情報として用いられるという、日本語の特性にも見合った新たな仮説を導き出すことができた。平成10年度は、この仮説の妥当性をより詳細に検討するための実験研究を引き続き行い、人間の文理解メカニズムに関する新たな知見を取り出したい。
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